お勧め度:⭐️⭐️⭐️
いやぁ、読んでいる間ずっと「ざわざわ」するどこか気持ちの悪い感じがした。
2024年版「このホラーがすごい!」第1位ということで、前情報無しで読んでみました。
悪霊や怪物に襲われて、人が沢山死ぬ、みたいな怖さを求める人にはおすすめしません。一般的なホラーというものではないんじゃかなと思います。
ディープかつスケールの大きい「世にも奇妙な物語」とでも言うのか、、、人が惨殺されるわけでも、凶悪な霊が出てくるのでもなく、登場人物たちがいる「世界」がこわい、状況がこわい、語り口がこわい。
作者の想像力がどこまでも広がり、すべての物語がどう着地するのかまったくわからない中短編集。
あらすじ 7つの物語
本書は人間の体を構成する、口、耳、目、肉、鼻、髪、裸にまつわる7つの話で構成されています。
食書
男が入った便所の中には、女がいた。女は本を引きちぎり口に押し込み貪っていた。女の残した言葉「一枚食べたら、もう引きかえせないからね……』
その光景を見た男は、狂っていると思いながら考えてしまうのです。食べたらどうなってしまうのか。
そして男は結論に達します。喰ってみればいい、と。
「本を食べる」ことで、その世界の中に入ることができるとしたら、あなたは食べますか?
一度食べたら戻れない、そんな風に言われたら?
耳もぐり
男がいるのはマンションの一室。そこは失踪してしまった恋人の隣人の部屋。隣人は恋人のことを知っているという。ひたすらに続く男の一人語りで語られる奇妙な話。そして男がかつて目撃し、みにつけることになった「耳もぐり」。そこには3つのタブーがあったのです。
この話が一番怖かった、最後のまざりあう独り言のおぞましいこと、、、
喪色記
幼いころから「視線」に対して苦手意識がある男。それは大人になってからも変わらず、社会にうまくなじめず鬱になり引きこもってしまった。仕事を離れ、穏やかに過ごそうとする男。しかしある日、目から生まれた出来事をきっかけに男の生活は全てが変わってしまう。
逃れようのない「最後」に向かう世界で紡がれる優しいストーリー。
最後はとても美しく、世界の再生に向かっていくような感覚を覚えました。
柔らかなところへ帰る
二十七になるまで女を知らなかった男。好みは妻と同じように痩せた女。ずっとそう思っていた。ある日、帰宅途中のバスの中で隣に座ってきたのは、自分よりも大きく肉付きの良い女。バスが動き出し、気がつくと女は寝ているようだった。しばらくすると彼は女の手が彼の股間に手を伸ばしていることに気づく。
一度はその場から逃げ出した男。しかしその日から男は太った女を探し求め、ある考えに囚われていきます。
ぬらぬらとした艶めかしい「肉感」を表現する言葉の数々。文章ってすごいです。
農場
職を失い、日々の生活に困窮する28歳の男。ある日、仕事を紹介すると言う老人に出会い、言われるがままについていきます。そこは「農場」と呼ばれ、あるバイオ関連企業からの依頼で実験的な作物を育てているという。その作物の名は「ハナバエ」。しかしその苗はどう見ても「人間の鼻」だった、、、
自分がなにを育てているのか、、、そして「これ」は何に使われるのか、、、
想像するだけでぞっとします。
髪禍
あなたはおちた髪の毛を触るのに抵抗はないでしょうか。自分の頭皮についているうちはなんとも思わないのに、一度離れてしまうと触るのが憚れる、、、そんな人って多いだろうな。体から離れた髪の毛を想像すると少しぞっとします。
生活に困窮した女。ある日若い頃に夜の仕事で関わりのあった男から連絡が入る。座っているだけで10万円手に入る仕事がある。それはある宗教団体が執りおこなう〈儀式〉にサクラとして参加すること。怪しいと訝しみながら、誘惑に負け参加する女。想像を絶するおぞましい恐怖がまっていることも知らずに、、、
髪の毛をあつかった話がここまで薄気味悪く、恐ろしいものになるとは。筆者の世界観に圧倒される物語。ラストの答えは一つ!世界は一つ!があまりにも恐ろしい、、、
漫画ベルセルクの怪物を思い出してしまいました。
ゾワゾワとくる気持ち悪さが強烈なお話です。
裸婦と裸夫
この本で一番吹き出した作品。「現代の裸婦展」に興味をもち、そこに向かう男。電車で移動する彼を突然襲う感染症。感染された者に触れられると、強烈な「服を脱ぎたい衝動」に襲われる「ヌーデミック」。あっという間に世界はその病に制圧された、逃げていた自分たちも感染者に囲まれてしまったその時、目の前から迫ってきたのものは、、、
この作者の想像力はどこまで広がっていくのか。
思いもしない人類再生の始まりが描かれます。
この本で好きだった表現
「一枚食べたら、、、」と女が勿体らしく声を低めた。「もう引き返せないからね。」(P11)
いまさらながら気づいたが、きっと私は、小説に力を求めるのと同じぐらいに、言葉が持つ小さな美しい無力な声を愛していたのだろう。それがこんなにも朗々と力強く鳴り響くものに変わり果ててしまうとは。(P37)
恐ろしいことです。喩えようもなく恐ろしいことです。思いどおりにならない肉体に生き埋めにされるというのは。(P67)
スマホもいじらず、音楽も聴かず、文庫本を開く。その時点で彼女の反骨精神は本物であると証明されたも同然だ。(P286)
引用元:「禍」 小田雅久仁 著
小田 雅久仁
1974年宮城県生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。2013年、受賞後第一作の『本にだって雄と雌があります』で第3回Twitter文学賞国内編第一位。2021年に九年ぶりとなる単行本『残月記』を刊行し、2022年本屋大賞ノミネート、第43回吉川英治文学新人賞と第43回日本SF大賞のW受賞を果たす。
引用元:https://www.shinchosha.co.jp
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