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何かを失ってまで手に入れたいもの。欲をかく怖さを教えてくれる「夜市」筆者 恒川光太郎 感想・レビュー

お勧め度 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

あっという間に読み終わってしまった。なんて読みやすく綺麗な文章なんだろう。すっーと読み進められるのに、話のシーンはしっかりと浮かんでくる。不思議な感覚。

第12回日本ホラー大賞作品らしいが、これは一般的なホラーとは全然違う。血の表現や「死」の表現がわずかに描かれるもののこの作品 にはほぼ出てこないと言っていい。

僕たちが生きている日常のすぐ横に隠れている「世界」に足を踏み入れてしまう。そんな話。僕はトトロに出会う森の道を思い出しました。
普段は見えないけれど、側に隠れている「違う世界」への入り口に踏み込んでしまった。まるでメイちゃんの気分。

自分の中にもある「欲」をかくと大切なものを失ってしまう、という示唆が物語になりその結末が本当に悲しく怖かった。

「欲」を叶える為には、何かを差し出さなければいけない。手に入れる前に立ち止まれたらいいのに。
読みながらそう思った。
自分の大切なものを差し出してまで、「ほしいもの」は手に入れる価値があるのか。

りくと
りくと

あらすじ

女子大生の「いずみ」は元同級生の「裕司」に誘われて「夜市」に向かう。
ここにはなんでもある。
自転車、本物のスーパーカー、生き物、日本刀、銃、麻薬、身長の伸びる薬。

裕也は昔夜市で「この世」では決して買えないものを買った。


ゆうやが買ったものは「野球の才能」だ。手持ちのお金だけでは足らず大切なものと交換して手に入れたその「才能」によって裕也は活躍し、甲子園にも出場した。

しかし野球はいつしか楽しいものではなくなってしまった。


ずっと心の中で後悔しているからだ。かけがえのない大切なものをこの野球の才能と引き換えにしてしまったことを。裕也は大切なものを取り返しにきたのだ。

この本で好きだった表現

警察も僕を犯人だなんていわない。僕は捕まらない。安心してもいい。安心しても、、、

それなのに、この気持ちはなんだ?
なぜ、青空に吸い込まれる、自分が打ったホームランを見て泣きたくなるんだ?

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これは成長の物語ではない。
何も終わりはしないし、変化も、克服もしない。道は交差し、分岐し続ける。

一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。
私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。

引用元:「夜一」 筆者 恒川光太郎

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りくと
りくと

筆者プロフィール

1973(昭和48)年、東京都生れ。2005(平成17)年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞しデビュー。2014年、『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。他の著作に『草祭』『真夜中のたずねびと』『滅びの園』『化物園』『箱庭の巡礼者たち』などがある。

引用元:新潮社公式サイト https://www.shinchosha.co.jp

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